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マスコミが招いた「自殺ブーム」女学生の自殺報道が944人の死者を生んだ三原山事件とは

炎上とスキャンダルの歴史5

 

■憶測記事が巻き起こした悲劇

 

 骨董屋を営む貴代子の父親は当時、69歳。年を取ってから授かった愛娘・貴代子の死を知らされたものの、「たった今さき、元村署から娘が死んだ、という電報をうけとりましたが、何で死んだのか、わしにはさっぱり分かりませんで」と記者に困惑しながら答えています(文藝春秋臨時増刊『昭和の35大事件』)。

 

 別の記事では火口に身を踊らせる瞬間の貴代子の姿を、「御神火番人」の男性は目撃しておらず、二人で火口を見に行くときには異常さはなかったのに、昌子だけが一人だけで戻ってきた姿に胸騒ぎがして、問い詰めたところ、「もう一人は火口に飛び込んだ」とわかり、通報したそうです。

 

 それを新聞が嗅ぎつけ、松本貴代子と富田昌子という女学生が同性心中を企て、一名だけが死んだという憶測記事に仕立てたので、これがたいへんな炎上となってしまったという説も……(『呪われた日本地図』)。

 

 かつては美貌の女流歌人として知られたものの、88歳まで生きるうちに、誰からも愛されなくなった小野小町の伝説を挙げ、「女として醜態を晒す前に、早く死にたい」と貴代子が心底願っていることを知った昌子は、彼女を引き止められなかったともいいます。

 

 その後、昌子は「自殺の道案内をした」としてマスコミに記事を書き立てられて炎上、自宅に閉じこもったのち数ヶ月後に急死します。また、一連の報道によって自殺の名所となった大島には大量の自殺志願者が訪れ、944人が命を絶つ事態にまで発展していきます。

 

<厚生労働省HPに掲載されている相談窓口(一部)>

■こころのオンライン避難所 https://jscp.or.jp/lp/selfcare/
■よりそいホットライン

0120-279-338 つなぐ ささえる(フリーダイヤル・無料)
※岩手県・宮城県・福島県からは0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)

■いのちSOS

0120-061-338 おもい ささえる(フリーダイヤル・無料)日曜日、月曜日、火曜日、金曜日 00:00~24:00、水曜日、木曜日、土曜日 6:00~24:00
※土曜日6:00~火曜日24:00まで、木曜日6:00~金曜日24:00までは連続対応

■いのちの電話

0120-783-556(フリーダイヤル・無料)毎日16時から21時まで

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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